現在はインデックスファンドが流行しているため、ヘッジファンドの話題をあまり耳にしなくなったが、かつてはヘッジファンドが世界の相場で大きな影響力を持っていた。ヘッジファンドの創始者であるジョージ・ソロスやジム・ロジャーズは、その卓越した投資手腕により、金融業界の人々から羨望の眼差しを集めていた。
今は、ウォーレン・バフェットが投資家内でのヒーローだろう。彼の素朴なキャラクターや、その名言は多くの投資家を引きつける。その彼が推奨しているのが、SP500等のインデックス投資だ。優れた投資家でも、投資するタイミングや銘柄については予想することが困難との見通しを示し、かつ、その見通しがなくても企業の分析をするだけで多くの資産を築くことができることを明らかにした。ただし、彼のような卓見した銘柄分析ができる人などほとんどいないが。
しかし、今においてもヘッジファンドは多くの人から注目を集める。レイダリオは金融危機に大きな収益を得ることに成功し、彼の著書は多くは国の破綻に関するものだ。シモサイモンズも有名人だ。ルネッサンステクノロジーを創設し、数理モデルを中心としたストラテジーで多くの収益を手にすることができた。ジョージ・ソロスは往年のヘッジファンドの創設者だが、イングランド銀行を負かせた男として有名だ。
長期間で見れば、ヘッジファンドの投資戦略はSP500には敵わないかもしれないが、シャープレシオ(=リターン / ボラティリティ)の高さは素晴らしいものがある。SP500はリターンは高いが、ボラティリティも高い。この高いボラティリティを許容できる投資家が、SP500への投資を成功させるのだろう。
今回は、ChatGPTを使いながらヘッジファンドについて調べてみた。ChatGPTのリサーチ能力は素晴らしくすぐに以下のことを調べてくれた。はっきり言って驚愕だ。
一部は私の手によって修正されているため、全部がChatGPTによるリサーチ結果ではない。
1. ヘッジファンドの主要ストラテジーの概要
ヘッジファンドが使用する代表的な投資戦略を以下にまとめた。
- グローバル・マクロ
- 世界のマクロ経済動向(景気、金利、通貨、商品市場など)に基づいて大規模なポジションをとる戦略。
- 各国の金利や通貨、株価指数、商品先物など流動性の高い市場を横断的に取引し、政策や経済の変化から利益機会を見出す。
- 必ずしもリスクヘッジを行わずにマーケットの方向性に大きく賭けるケースも多く、その収益率の変動はヘッジファンド戦略の中でも大きい傾向がある (The Multiple Strategies of Hedge Funds)。
- 有名な例として、ジョージ・ソロスが1992年に英国ポンドを空売りし一日で10億ドル超の利益を上げた取引(「ポンド危機」)が挙げられ、グローバル・マクロ戦略の代表的成功例とされている (Black Wednesday – Wikipedia)。
- ロング・ショート・エクイティ
- 割安と判断した株式を買い(ロング)、同時に割高と判断した株式を空売り(ショート)することで、市場全体の値動きによる影響を抑えつつ個別銘柄の選択眼で利益を狙うエクイティ戦略。
- 1949年にアルフレッド・ジョーンズがヘッジファンドで初めて採用して以来、現在でも株式系ヘッジファンドの主流となっている (The Multiple Strategies of Hedge Funds)。
- 典型的にはペアトレード(一組の類似企業の一方を買い他方を売る)によって市場中立に近づける手法
- 例えば「GMがフォードより割安」と分析した場合にGM株を10万ドル買い、フォード株を同額ショートすることでネットの市場エクスポージャーをゼロとし、両社の相対株価差から利益を得ることができる。
- 市場全体が上昇・下落どちらの場合でも、予想通りGMが相対的にアウトパフォームすれば収益が得られる(逆の場合は損失)。
- 市場全体の影響をヘッジするため、純粋な銘柄選択(ストックピッキング)によるアルファ獲得を目指す戦略です。
- マーケット・ニュートラル
- ロング・ショート戦略の一形態で、ロングとショートのポジション規模を厳密に均衡させ、市場全体に対して中立(ニュートラル)なポートフォリオを構築する戦略
- ネットエクスポージャーをゼロ(市場中立)に保つことで、ポートフォリオ全体のリターンが市場要因ではなく銘柄選択の巧拙のみから生じるようにする
- この戦略は理論上リスクが低く安定したリターンを目指せるが、マーケットに対するバイアスを持たない分、大きなアルファを得るのも難しく、期待リターンは相対的に低めになる
- また市場全体が強いトレンドを示す局面(リスクオン/オフが鮮明な相場)では苦戦しやすいと言われている
- 実際、2008年以降の超低金利期には、多くのマーケット・ニュートラル戦略がショートポジションの担保金利収入(リベート)の低下もあって伸び悩みなやんだ(※借株の担保金利リベートは金利水準が0%に近いとゼロになるため)。
- 反面、金利上昇局面では担保金利収入が収益に寄与しやすく、この戦略には追い風となる
- イベント・ドリブン
- 企業の合併買収、破産・債務不履行、資本再編、スピンオフ(事業分離)など、企業イベントに起因する価格のゆがみに着目する戦略の総称
- 株式と債券の中間領域に位置するとされ、典型的には財務的に苦境にある企業の債券や銀行貸出債権を安値で購入し、企業再建に伴う価値回復による利益を狙う
- 運用者は元本回収可能性の高いシニア債務(優先債権)にフォーカスし、最終的に額面どおり(パー)に近い水準で返済される見込みのある債券を厳選する
- 場合によってはヘッジのため、その企業の株式を空売りし(まだ破産申請前であれば株価下落を見込んでショート、破産申請後であれば劣後債をショート)、保有債券のリスク緩和を図ることもある
- イベント・ドリブン戦略は景気が良く企業活動(M&Aや再編)が活発な局面で特に有効とされ 、実際2000年代半ばのM&Aブーム期などに高いリターンを記録したファンドが多数存在した
- ただし企業再編や倒産処理は計画通りに進まないことも多く、完了まで数ヶ月~数年要するケースもあるため、投資家には一定の忍耐とイベント不成立リスクへの許容が求められる
- イベント・ドリブン戦略の詳細は後述します(※2章参照)。
- マージャー・アービトラージ
- イベント・ドリブン戦略の中でも合併裁定取引と呼ばれる分野
- 企業買収・合併(M&A)が発表された後に生じる価格差に着目し、取引完了時に確定するスプレッド利益を狙う
- 具体的には、買収が公表されたターゲット企業の株式を買い、同時に買収を行う側の企業の株式を所定の割合で空売りします(株式交換による合併の場合)。
- 買収成立までには規制当局の承認や株主総会での可決、重要事象の不発生(業績悪化など)といった条件が付きもの。市場では取引失敗のリスクと完了までの時間価値を考慮し、ターゲット企業の株価が提示買収額より低い水準(例えば現金買収なら提示額より数%ディスカウント)で推移します
- 裁定者はこのギャップを利益機会とみなし、無事条件がクリアされ買収完了となれば、株式市場全体の動向に関係なくそのスプレッド分のリターンを獲得できる
- ただしマージャー・アービトラージは成功確率は高いが一度の失敗で大きな損失を被りうる点に注意が必要
- 買収側が提示するプレミアム(買収発表前の株価に上乗せする割合)は往々にして高額であるため、万一取引が破談となればターゲット株は急落し、裁定者は大きな損失に直面する
- こうしたリスク管理の難しさから「危険な市場中立」とも称されますが、多くの案件に分散投資することでリスクを低減し小さな確実利益を積み重ねる手法が一般的
- クオンツ・ストラテジー
- 定量的(クオンティタティブ)手法を駆使した戦略で、数理モデルや統計分析に基づき投資判断を行う
- 大量のマーケットデータをコンピュータで解析し、人間の直感に頼らず統計的優位性に従って売買する点が特徴
- 近年では高度な技術力を背景に、自動売買アルゴリズムや機械学習(AI)を組み込んだファンドも登場しており、しばしば内部のロジックがブラックボックス化している
- 例えばマーケットのわずかな価格差異やパターンを高速取引(HFT)で収益化するスタイルや、統計的裁定取引(Statistical Arbitrage)によってミリ秒単位で利ざやを稼ぐファンドはクオンツ戦略の典型となる
- データ駆動型ゆえに一時的な相関変化やモデル崩壊に弱い面もあるが、人的バイアスの排除による一貫性や膨大な情報処理能力を武器に、市場の非効率を突くことを目指している
- フィクスト・インカム・アービトラージ
- 主に国債や金利スワップなど固定利付証券(フィクスト・インカム)の価格差に注目する裁定取引戦略
- 異なる市場間で同じリスク水準の債券の価格差を抜く取引や、金利カーブの形状変化に賭けるペアトレードが典型的
- 例えば「長期金利が短期金利に比べ相対的に上昇する」と予想する場合、長期債を空売りして短期債を購入するポジションを取り、将来的に利回り曲線がスティープ化(長短金利差拡大)すれば利益が出るという具合です
- 信用リスクを極力排除しイールドカーブの歪みに集中するため、単独では利ザヤが小さい反面、高いレバレッジ(信用テコ)を用いることで資本効率を高める手法が取られる
- この戦略は市場の金利機構に対する深い専門知識を要し、1990年代のLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)のように過度なレバレッジから破綻した例も知られている(※LTCMは裁定モデルが機能しない事態で巨額損失を出し1998年に救済措置を受けました)。
- ディストレスト・セキュリティーズ
- 財務的に行き詰まった企業の発行する不良債券や低格付け社債(ハイイールド債)、破産債権などに投資する戦略
- 発行体のデフォルトや倒産により市場価格が大幅に下落した証券を安値で買い集め、法的再編や債務交渉によって価値が回復した際に大きな利益を狙う
- イベント・ドリブン戦略の一種であり、上記の通り運用者は回収可能性の高いシニア債権に重点投資するのが一般的
- 例えば破産手続き中の企業のシニア債券を額面50で購入し、再編後に80で償還されれば大きなリターンとなる。
- もっとも再建シナリオが期待通り進まないリスクも高く、実現まで長期戦になりやすいため、ファンドマネージャーの見立てと粘り強さが試される戦略となる
- 著名な専業ファンドとして、ハワード・マークスが率いるオークツリー・キャピタル(Oaktree Capital Management)などが世界金融危機後の不良債権市場で頭角を現した
- CTA・マネージドフューチャーズ:
- CTA(商品投資顧問)とは商品先物取引業者の資格を持つ運用者のことで、彼らが運用するマネージドフューチャーズは、先物市場を主体とした戦略
- 伝統的にトレンドフォロー(順張り)戦略が多く、商品先物(原油・金など)や金融先物(株価指数先物、国債先物、通貨先物)において上昇トレンドなら買いポジション、下降トレンドなら売りポジションを取り、中期的な値動きの波に乗ることを目指す
- CTAはヘッジファンドに比べ投資対象が限定的だが、先物という高流動性かつ信用リスクの低い市場で運用するため、現物市場が低迷する局面でも利益を上げやすく、伝統資産との相関が低い分散効果も期待できる
- 実際、マネージドフューチャーズは株式市場が低迷した局面で顕著なプラスのリターンを示すことがあり、危機時に強い戦略として年金基金など機関投資家からの需要が高まっている
- 例えばCTA戦略の代表格であるトレンドフォロー型ファンドは、2022年のような株・債券が共倒れとなった年でも、商品高や金利上昇のトレンドを捉えて高い収益を上げた(※参考:2022年のCTA指数は+20%超の上昇)。
以上がヘッジファンドの主な戦略の概要です。それぞれリスク・リターン特性や必要とされる専門知識が異なり、景気局面や市場環境によって得意・不得意が分かれる点に留意が必要となる。
2. イベント・ドリブン戦略の詳細
イベント・ドリブン戦略とは、企業の特定のイベント(出来事)に関連して生じる市場の非効率を狙うヘッジファンド戦略です。企業の合併・買収(M&A)、経営破綻、資本再編、訴訟・規制変更など“カタリスト”となる出来事が起きると、その企業の株価や債券価格は通常とは異なる動きを示すことがあります。イベント・ドリブン戦略のファンドは、そうしたコーポレートアクションによる価格変動からアルファを獲得しようとします
- どのような市場環境で有効か
- イベント・ドリブン戦略は一般に、景気が順調で企業活動が活発な市場局面で優位性を発揮しやすいとされている。
- 経済が安定成長している局面では、企業は盛んにM&Aや事業再編、レバレッジド・リキャピタリゼーション(借入を活用した株主還元)などを行う傾向があり、投資機会が増えるため
- 例えば株式市場が堅調で信用環境も良好なときには、大型合併案件が次々と発表され、それに伴う裁定取引(マージャー・アーブ)の機会が豊富になる
- また景気拡大期の終盤には企業負債も膨らむため、景気後退に転じると倒産・債務不履行が増え、ディストレスト(不良債券)投資の出番が訪れるという側面もある
- したがって、一概に常に景気が良い時だけ有効とは限りませんが、少なくとも市場混乱が小さく取引が成立しやすい環境(流動性が保たれている状況)の方が、イベント・ドリブン戦略は狙い通り機能しやすいと言える
- 具体的なサブカテゴリ
- イベント・ドリブン戦略にはいくつかのサブ戦略(細分類)が存在する。
- 主なものは次の通り
- マージャー・アービトラージ(リスク・アーブ)
- 前述の通り、発表済みのM&A案件に乗じて、ターゲット企業株と買収企業株の価格差(アナウンスメント・スプレッド)から利益を狙う戦略
- 多数の案件に分散投資し、小さな確定利益を積み上げる手法が一般的だが、稀に大型案件が不成立となるリスクも抱える
- ディストレスト・デット(ハイイールド/不良債券投資)
- 財務破綻の危機にある企業の債券や銀行ローン、破産債権などに投資する戦略
- 企業の再建や資産売却によって債権回収率が市場予想を上回れば大きな利益が得られる
- 特に景気後退期から回復期にかけて、有望な破産債権を安価に取得し景気回復とともに売却益を狙う手法は、伝統的に高リターンを生みやすいとされてる
- アクティビスト投資
- 物言う株主(アクティビスト)として対象企業に株主提案や経営陣への働きかけを行い、企業価値向上を図って株価上昇益を狙う戦略
- 自らがイベント(経営変革)を起こす点が特徴で、取締役会の刷新や事業売却・分社、配当増額などを要求し、実現した場合の株価上昇で利益を得る
- アクティビスト戦略は株式の大量保有が前提となるため資金力が求められ、時に経営陣との対立も伴いますが、近年ではESG要素を絡めた提案(環境対応やガバナンス改善要求)も増えている
- マージャー・アービトラージ(リスク・アーブ)
- 代表的な成功例:
- マージャー・アーブの成功例
- 多くの合併裁定ファンドは地道に年率数%程度のリターンを安定的に積み重ねている。
- 例えば著名な運用者ジョン・ポールソンは2000年代にリスク・アービトラージ戦略で頭角を現し、数々の大型M&A(例えば製薬業界の大型買収案件など)でスプレッド利益を獲得した。
- その後の2007年にはサブプライム危機を見抜いた空売りで歴史的利益を上げましたが、元々はM&A裁定取引の巧者として知られています。
- ディストレスト投資の成功例
- 世界金融危機(2008–09年)の際、ハワード・マークス率いるオークツリー・キャピタルは暴落した不良債券を底値圏で買い集め、その後の市場回復で巨額の利益を上げました。また、ポール・シンガーのエリオット・マネジメントはアルゼンチンの国債デフォルト債権を安価に取得し、法廷闘争の末に満額に近い債務返済を勝ち取ることで高いリターンを得ています(この執拗さから物議も醸しました)。
- アクティビストの成功例
- 2012年、ビル・アックマン率いるパーシング・スクエアはカナダ太平洋鉄道(CP Rail)に対する大規模な株主活動を行い、経営陣を刷新して業績改善を果たした
- 結果としてCP社の株価は数年で大幅に上昇し、同社への投資はパーシング・スクエアにとって「最も成功した案件の一つ」とされている
- 近年では小規模ファンドのエンジンNo.1がエクソンモービルの取締役選挙で勝利し、石油メジャーに気候変動対応を迫る改革を実現したケースもあった(2021年)など、株主提案型の成功例が増えている
- マージャー・アーブの成功例
- 代表的な失敗例:
- マージャー・アーブの失敗
- 2014年、米製薬大手アッヴィ社によるアイルランド医薬品企業シャイアー社の買収が税制変更により白紙撤回される事件が起きた
- この案件に投資していたリスク・アーブファンドは一斉に損失を被り、中でもジョン・ポールソンのファンドは約15億ドルもの損失を出したと報じられている
- このように成功確率が高い戦略でも、一度の大型破談で甚大な損害が発生するリスクが現実のものとなった
- また、2001年には米GE社によるホーニングス社買収が欧州当局の反対で破談となり、多くのファンドが痛手を負っている。
- アクティビストの失敗
- アクティビストは時に過大な賭けに出て失敗することがある
- 著名な例として、ビル・アックマンは製薬会社ヴァリアント(現バイオフォン)に経営関与目的で巨額投資しましたが、同社の不祥事や業績悪化で株価が90%以上下落し、2017年に約30億ドル超の損失を確定させた
- この失敗はアクティビスト戦略のリスクを浮き彫りにし、ファンドの評判にも大きな打撃を与えた。
- また彼はかつて米小売大手ターゲットへの提案でも失敗し、多額の損失を出しています。
- その他、エディ・ランパートが主導したシアーズの買収・統合戦略は最終的に破綻につながり、小売帝国の崩壊を招いたケースなども知られている。
- マージャー・アーブの失敗
以上のように、イベント・ドリブン戦略は特定の企業イベントからアルファを得る魅力がある一方で、イベント発生の可否や結果に大きく依存するリスクを伴う。不確実性の高い状況を扱うため、綿密なデューデリジェンスとシナリオ分析、リスク管理が成功の鍵となる。
3. 最近のトレンド
ヘッジファンド業界を取り巻く環境や戦略の潮流は、近年大きく変化している。
特に以下のトレンドが注目されています。
- AI・機械学習を活用したクオンツ・ストラテジーの台頭
- 近年、人工知能(AI)技術の進歩に伴い、ヘッジファンドでも機械学習やビッグデータ解析を投資に活用する動きが加速している。
- 特にジェネレーティブAI(生成AI)の登場は運用現場に変革をもたらしつつある
- 多くのファンドが社内リサーチとAI分析を組み合わせて市場調査を高度化し、業務効率を向上させている
- 例えば、ニュースやソーシャルメディアのテキスト解析によるマーケット予測、画像認識を用いた衛星写真からの情報収集など、AIによる新手法でアルファ獲得を目指すファンドも現れている
- また、AIを使った業務自動化(書類作成や定型分析の効率化)も進んでおり、人的コスト削減や意思決定の高速化にも寄与している
- さらに従来からのクオンツ運用でも機械学習・データサイエンスの導入が主流化しており、大規模データを高速に処理してパターンを発見することで意思決定精度を高めている
- これらの技術トレンドに対応すべく、伝統的ヘッジファンドも専門人材の採用やシステム投資を増やしており、「AIアームズレース(軍拡競争)」と呼ばれる状況になっている
- もっともAIモデルはブラックボックス化しやすいため、過信によるリスクや規制上の懸念(説明責任やバイアス問題など)も指摘されている
- それでも業界全体としては、AI活用による新たなアルファ源泉の開拓に積極的であり、この流れは今後も続く見通し
- ESG・サステナブル投資とヘッジファンドの関係
- 環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要因を考慮したESG投資の潮流は、ヘッジファンドにも影響を及ぼしている
- 従来、ヘッジファンドは四半期ごとのリターン最優先でESGとは縁遠いとみられてきたが、近年は一部ファンドがESG評価を組み込んだ投資戦略を掲げ始めている
- 例えば、投資先企業の炭素排出量や労働環境に配慮したロング・ショート戦略、武器産業やタバコ産業を除外するマーケットニュートラル戦略、さらには再生可能エネルギー関連のグローバル・マクロ戦略など、多様な形でESG志向が現れている
- ヘッジファンド大手でもESG専門の分析官を配置したり、サステナビリティ委員会を設置する例が出ている。
- また機関投資家からの資金獲得のため、ESG要件への対応が事実上必要になりつつある。
- ヨーロッパでは規制上もファンドにサステナビリティ開示を求める動きがあり、これに応じて運用報告書にESGリスクやインパクトを記載するヘッジファンドも増加している
- さらに、アクティビストファンドの中には「ESGアクティビズム」を掲げるところもあり、企業に対しカーボンニュートラル戦略の導入や多様性経営の強化などを要求するケースも見られる
- 総じて、ヘッジファンド業界でもESG・サステナブル投資との向き合い方が課題となっており、投資哲学や戦略の面で従来との変化が進んでいる
- 高金利環境下でのストラテジーの適応
- 2022年以降の世界的なインフレと金融引き締めにより、長らく続いた超低金利時代が終焉を迎え、マーケットのボラティリティ(変動率)やセクター間のリターン格差が拡大している。
- この新たな金利環境はヘッジファンド戦略にも大きな影響を与えている
- まず、ゼロ金利に近い状況では苦戦しがちだったロング・ショート株式戦略に追い風となっている
- 金利上昇に伴い市場全体の資金調達コストが上がると、企業業績への影響度合いが業種や企業によってばらつき、高成長株とバリュー株などの明暗が分かれやすくなる
- その結果、株式間のリターン分散が広がり、銘柄選択型ファンドにとっては収益機会が増大している
- 実際、米アライアンスバーンスタインの分析によれば、米国金利が5–6%程度で推移した過去の局面では、ロング・ショート戦略の平均成績が向上する傾向が確認されている
- また金利の上昇は裁定取引系戦略の収益機会拡大にも繋がる
- 例えば、債券利回りが上昇しイールドカーブが大きく動けば、フィクスト・インカム裁定で収益を得る余地が広がり、金利差拡大に伴い信用スプレッド(社債と国債の金利差)が変動すれば、クレジット戦略にもチャンスが訪れる
- 加えて、金利上昇は無リスク利子率の上昇でもあるため、多くのヘッジファンドにとってはベースとなる収益環境が改善する。
- 例えば市場中立戦略では、ショートポジションの担保現金を運用することで得られる金利収入(リベート)が増加し、何もしなくとも一定の利回りが確保できるようになる
- 一方で、懸念もある。高金利により株式などリスク資産から資金が流出し市場流動性が低下すると、ヘッジファンドのポジション解消が困難になるリスクが高まる
- 実際、2022年には英国債市場の乱高下(LDI危機)で一部ヘッジファンドがポジション縮小を余儀なくされる場面もあったが、総じて、高金利環境は「選別の時代」とも言われ、平均点のヘッジファンドには逆風ですが、敏腕の運用者にとっては格好の狩場となり得る局面といえる
- 規制や市場変動の影響
- 2008年の金融危機以降、ヘッジファンドに対する規制と監視は強化されてきたが、最近ではさらに一段のルール整備が進んでいる
- 米国では2023年8月にSEC(証券取引委員会)が私募ファンド規制強化策を採択した
- この新規則では、ヘッジファンドを含むプライベートファンドの運用業者に対し、四半期ごとの詳細な運用報告書の投資家提供や、年次監査の実施、特定の投資家だけに有利な条件(手数料割引や換金権)を提供することの禁止などが定められている
- 狙いは透明性の向上と投資家間の公正確保であり、業界の慣行に一石を投じるもとなった
- ヘッジファンド側はこれに反発し訴訟に発展、2023年10月には一部規則の差し止め判決も出るなど紆余曲折があったが、世界的にもファンドの情報開示やリスク管理体制の強化を求める流れは続いている
- また市場構造の変化も無視できない。近年は個人投資家の台頭やSNSを通じた情報拡散により、これまで想定しなかった相場変動が起きるケースも出てきた。
- 顕著な例が2021年初頭のゲームストップ(GameStop)株騒動。
- インターネット掲示板を介した個人投資家の結集によりゲームストップ株が急騰し、空売りポジションを大きく積み上げていたヘッジファンドのメルビン・キャピタルが1ヶ月で-53%という壊滅的損失を被った
- 従来は考えにくかった個人主導のショートスクイーズが現実化し、ヘッジファンドも不測の損失リスクに直面した
- この事件は規制当局にも衝撃を与え、ヘッジファンドの開示義務(ショートポジション報告の検討等)や個人投資家の取引規制など議論を呼んだ
- また、2020年3月の新型コロナ・ショックでは市場の流動性が瞬間的に枯渇し、クオンツ系ファンドが一斉に同じ取引を解消する「クオンツ・クラッシュ」が発生しました。
- 市場の相関関係が普段と大きく変化した結果、分散投資が効かなくなり、多くのCTAや統計裁定ファンドが月間で二桁の損失を出したとも言われている
- このように市場変動要因が多様化・複雑化する中、ヘッジファンドはリスク管理モデルの見直しやポジションの流動性確保にこれまで以上に注力するようになっている。
- 規制強化と相まって運用の自由度はやや制約される方向だが、その一方で銀行の自己勘定取引規制(ボルカー・ルール)などにより生じた隙間をヘッジファンドが埋める機会も増えており、適応力の高いファンドにとっては依然として大きなビジネスチャンスが存在している。
4. 代表的なファンドと創始者
ヘッジファンド業界には、卓越した運用成績で知られる有名ファンドとカリスマ的な創始者が多数存在します。以下に主要な例を挙げ、それぞれの戦略や創始者の経歴・影響力を概観します。
- ブリッジウォーター・アソシエイツ(Bridgewater Associates)
- 創始者: レイ・ダリオ(Ray Dalio)
- 1975年にレイ・ダリオがニューヨークの自宅アパートで創業したブリッジウォーターは、現在では運用資産約1,717億ドル(2024年3月時点)を誇る世界最大のヘッジファンドに成長している
- 同社はグローバル・マクロ戦略の代表格で、各国の経済指標や政策分析に基づきオールウェザー・ポートフォリオやピュア・アルファ戦略を展開している
- ダリオ自身「ブリッジウォーターはグローバルマクロ企業だ」と述べており、定性的な洞察と定量モデルを組み合わせた独自の投資手法を用いている
- ブリッジウォーターは2008年の金融危機時にも利益を上げるなど長期にわたり堅調な実績を示し、累積の投資家還元額はヘッジファンド史上最大とも言われている
- 実際、同社は「顧客に最も多くの利益をもたらしたヘッジファンド」と評され 、その功績によりダリオは2012年のTIME誌「世界で最も影響力のある100人」に選出されている
- 彼の経営するブリッジウォーターは独特の社内文化(徹底的な透明性と原理原則)でも知られ、「プリンシプルズ」という彼の著書はビジネス書のベストセラーにもなった
- ダリオは2022年に経営の第一線を退きましたが、現在もCIOメンターとして後進を指導しつつ、自身の経済見通しは各国中央銀行や投資家に大きな影響を与え続けている。
- ルネッサンス・テクノロジーズ(Renaissance Technologies)
- 創始者: ジム・サイモンズ(Jim Simons)
- ルネッサンスは1982年、数学者のジム・サイモンズによって創設されたクオンツ系ヘッジファンドの草分け存在
- サイモンズはMITやハーバードで数学教授を務めた後、NSA(米国家安全保障局)の暗号解読官も務めた異色の経歴を持ち、金融工学とコンピュータサイエンスを駆使してマーケットに挑んだ
- 同社の旗艦ファンドであるメダリオン基金は1988年から社員資金のみで運用され、1988~2018年に平均年率66%(手数料控除前、控除後でも約39%)という驚異的なリターンを叩き出している
- この実績は近代金融史上最高とされ、市場の効率性に一石を投じるもとなった
- ルネッサンスの戦略は完全にブラックボックスで、数百人規模の科学者やエンジニアが市場の微細な価格パターンを統計的に検出するアルゴリズムを改良し続けている
- 人工知能とビッグデータの先駆的活用も特徴で、1980年代から既にサイモンズは大量の価格データに機械学習的手法を適用しており、今日のAIブームを先取りしていた
- 創始者サイモンズは2009年に引退しましたが、ルネッサンスはその後も「システムの勝利」を体現する存在として伝説化している
- なお一般投資家は同社の好成績を享受できず、メダリオンは社員のみ参加可能で外部資金を受け入れていない
- 一方で外部投資家向けのファンド(RIEFなど)は運用資産規模が縮小傾向にあり、近年は苦戦も報じられている
- しかしジム・サイモンズが築いたクオンツ帝国のインパクトは絶大で、業界の多くの運用会社が彼に倣いデータ解析やAI人材の活用に励んでいる
- シタデル(Citadel LLC)
- 創始者: ケン・グリフィン(Ken Griffin)
- シタデルはマルチストラテジー型ヘッジファンドの代表格で、1990年にケン・グリフィンによって設立された
- グリフィンはハーバード大学在学中の19歳から寮の部屋で衛星アンテナを使いリアルタイム相場にアクセスしながら債券の裁定取引を行い、その才能を開花させた
- シタデルは創業以来、コモディティ、クレジット(社債・転換社債)、株式ロング・ショート、グローバル・マクロ(金利・為替)、クオンツ戦略など少なくとも5つの主要部門を社内に擁し、各分野のチームが同時並行で運用を行う分散型モデルを取っている
- このモデルにより特定分野の不振を他で補い、全体として安定的に高収益を上げることに成功している
- 実際、シタデルは2008年の金融危機時こそ苦戦したものの、その後大きく業績を回復させ、近年では年率20%を超えるリターンを記録するなど絶好調で、2022年にはファーム全体で過去最高益を計上
- 運用資産も急増し、2024年8月時点で約3,970億ドルに達しており、ブリッジウォーターを上回る世界最大級の規模となっている
- グリフィン自身は金融長者番付の常連で、その財産は300億ドル超とも言われます。彼はヘッジファンドのみならずマーケットメイク会社(シタデル・セキュリティーズ)も率いており、市場流動性供給や価格形成にも影響力を持つ存在
- また、美術品や不動産への巨額投資、慈善活動や政治献金でも知られ、金融界を超えて名前が知られる人物
- エリオット・マネジメント(Elliott Management)
- 創始者: ポール・シンガー(Paul Singer)
- エリオットは1977年創設の老舗ヘッジファンドで、現在では世界最大のアクティビスト・ファンドとして知られている
- 創始者ポール・シンガーは一貫してイベント・ドリブン型の投資を展開し、特に危機的状況下の企業や国家の債券に投資して積極的に権利を主張する手法で有名
- 代表例が前述のアルゼンチン国債で、2001年の同国デフォルト後に債権を安値で買い集め、米英の裁判所で法的措置を講じて元本と利息の全額支払いを勝ち取ったエピソードは有名
- また近年の企業アクティビズムとしては、AT&TやTwitter、ソフトバンクなど数々の大企業に対し経営改善策を迫り結果を出している
- シンガーはその強硬な手法から「ウォール街一の末日預言者(Doomsday Investor)」とも呼ばれ、経済や政治に対する辛辣なコメントでも注目されている
- エリオットの成功要因は徹底した調査と粘り強さにあり、敵対的な状況でも妥協せず投資リターンを追求する姿勢は他の追随を許さない
- 同社の運用資産は約560億ドル(2022年時点)に達し、アクティビスト型としては突出している
- シンガーの影響で、他のヘッジファンドも企業との対話を重視したり、法務面に強い人材を確保する動きが出るなど、業界全体に与えた影響も大きいと言える
- クォンタム・ファンド(Quantum Fund)
- 創始者: ジョージ・ソロス(George Soros)
- ソロスが1973年に設立したクォンタム・ファンド(ソロス・ファンド)は、グローバル・マクロ戦略を主軸に運用され、20世紀後半で最も有名なヘッジファンドの一つ
- 特筆すべきは1992年のポンド危機で、ソロスは英ポンドの下落に巨額の資金を賭け、「1日で10億ドル以上の利益を上げて英中央銀行を降伏させた」と報じられた(この伝説的イベントにより“イングランド銀行を潰した男”の異名をとった)
- 他にも1997年のアジア通貨危機ではタイバーツを攻撃し、各国政府と渡り合うなど、その果敢な取引は各国に影響を及ぼした
- ソロス自身は哲学者カール・ポパーの影響を受けた「再帰性理論」をマーケットに応用し、相場には人間心理がフィードバックを通じてバブルと崩壊を生むと唱えた。
- この洞察と大胆な意思決定で長年高いリターンを生み、クォンタムは1970年代から2000年代初頭まで年率20–30%台の実績を残した
- ソロスはその富を元に慈善活動(オープン・ソサエティ財団の設立など)にも注力し、思想的・社会的にも大きな影響力を持つ人物
- 彼の成功は後進のマクロファンドに多大な示唆を与え、スタンレー・ドラッケンミラーなど優秀なマネージャーを輩出した。
以上、代表的なヘッジファンドとその創始者の例を挙げた。
これら以外にも、D.E.ショー(コンピュータ科学者デヴィッド・ショーが創業、ジェフ・ベゾスを輩出)や、ツー・シグマ(モルガンスタンレー出身のシーゲル&オーバーデック創業、AI駆使のクオンツ運用)、ムーア・キャピタル(ルイス・ベーコン創業、グローバルマクロ)やバークシャー・ハサウェイ(ヘッジファンドではないもののウォーレン・バフェットの投資パートナーシップに源流)など、枚挙に暇がない。
それぞれのファンドマネージャーが独自の哲学と手法でマーケットと対峙し、金融史に名を刻んできた。その成功と失敗の事例は、本レポートで述べたような各種戦略の特性やリスクとも深く結びついており、ヘッジファンドという業態の多様性と奥深さを物語っている。
参考資料: 本レポートは公開情報および専門機関のレポートに基づき作成した
- The Multiple Strategies of Hedge Funds
- Top 20 Hedge Fund Industry Trends In 2024 – Hedge Think
- For Hedge Funds, Rising Rates Mean Opportunity | AB
- World’s Top 10 Hedge Funds
- Our Founder
主要な出典の一覧
1. ヘッジファンドの戦略と概要
- Investopedia – 「Hedge Fund Strategies」
- Preqin – 「Global Hedge Fund Report」
- BarclayHedge – 「Hedge Fund Strategy Definitions」
- CAIA Association – 「Alternative Investments: CAIA Level I」
- Morgan Stanley Research – 「Hedge Fund Strategy Insights」
2. イベント・ドリブン戦略の詳細
- Credit Suisse – 「Event-Driven Strategies Overview」
- Harvard Business Review – 「The Rise of Activist Investors」
- Institutional Investor – 「Merger Arbitrage: Risk and Rewards」
- Bloomberg – 「Event-Driven Hedge Funds Gain Amid M&A Surge」
3. 最近のトレンド
- McKinsey & Company – 「The Future of Hedge Funds in a High-Interest Environment」
- PwC – 「Hedge Fund Trends and Challenges 2025」
- Hedge Fund Research, Inc. (HFRI) – 「Hedge Fund Performance Trends」
- AI in Finance Summit Reports – 「The Impact of AI on Hedge Fund Strategies」
- Financial Times – 「Hedge Funds Embrace ESG Investing」
4. 代表的なファンドと創始者
- Forbes – 「Top Hedge Fund Managers and Their Net Worth」
- Wall Street Journal – 「Profiles of Hedge Fund Legends」
- Bloomberg Billionaires Index – 「Hedge Fund Titans」
- New York Times – 「Hedge Fund Pioneers and Their Legacy」
- Books:
- 「Principles」 by Ray Dalio
- 「The Man Who Solved the Market」 by Gregory Zuckerman (Jim Simons and Renaissance Technologies)
- 「More Money Than God」 by Sebastian Mallaby (Hedge Fund History and Key Figures)
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