政策金利(Policy Rate)と中立金利(Neutral Interest Rate)の違い
日本銀行をはじめとする中央金融機関は、インフレ率を継続的に2%に維持することを目指し、政策金利(主に短期金利)を調整してきた。2%という水準は、景気が過熱も冷え込みもしないバランスの取れた状態とされ、暗黙の目標として採用されてきた。特に、黒田元日銀総裁はこの2%のインフレ達成を目指し、大規模な金融緩和を実施した。
最近では、政策金利とインフレ率の議論に加えて、中立金利という概念が注目されるようになった。この中立金利とは何か、政策金利とどのように異なるのかを詳しく見ていく。
① 政策金利(Policy Rate)とは?
政策金利とは、中央銀行が金融政策を実施するために設定する基準金利のことを指す。各国の中央銀行(日本では日本銀行、アメリカではFRB、欧州ではECBなど)が、短期市場金利を調整するために操作を行う。
代表的な政策金利の例
- 日本: 日本銀行の「短期金利(無担保コール翌日物金利)」
- アメリカ: FRBの「フェデラル・ファンド・レート(FFレート)」
- 欧州: ECBの「主要リファイナンス金利」
政策金利の目的
政策金利の調整は、景気の状態に応じて次のように行われる。
- 景気過熱時 → 政策金利を引き上げ(利上げ)
- インフレ抑制
- 過剰な投資や消費の抑制
- 景気低迷時 → 政策金利を引き下げ(利下げ)
- 企業や消費者の借り入れコストを低減
- 経済活動を刺激
このように、政策金利は景気の過熱や冷え込みを調整するために用いられる。
② 中立金利(Neutral Interest Rate)とは?
中立金利とは、景気を過熱も冷え込みもしない適正な成長を維持する理論的な金利水準を指す。政策金利が中立金利に近い水準で推移している場合、金融政策は「景気刺激」でも「景気引き締め」でもなく、中立的な状態とみなされる。
中立金利のポイント
- インフレを過度に加速させることもなく、景気を冷やしすぎることもない適正水準
- 政策金利 > 中立金利 の場合、金融引き締め(景気抑制)となる
- 政策金利 < 中立金利 の場合、金融緩和(景気刺激)となる
中立金利の算出方法(理論値)
中立金利の正確な数値を求めることは難しいが、一般的には以下の式で推計される。
中立金利=潜在GDP成長率+期待インフレ率
例えば、アメリカの場合:
- 潜在GDP成長率が 2%
- 期待インフレ率が 2%
- 中立金利 ≒ 4% と推計される
日本の場合、成長率が低いため、中立金利も比較的低いと考えられる。
- 現在の日本の潜在GDP成長率は 0%半ばから後半
- 期待インフレ率は 2%後半~3%前半
- したがって、中立金利は 3%~4%程度 になる可能性がある
現在の短期金利が 0.5% であることを考慮すると、まだ上昇の余地がある。おそらく日本銀行は期待インフレ率を 2% に安定させる方向で動くと考えられ、その場合、中立金利は 2%後半 が適切な水準となるだろう。
まとめ
用語 | 定義 | 役割 |
---|---|---|
政策金利 | 中央銀行が設定する短期金利 | 景気を調整(利上げで抑制、利下げで刺激) |
中立金利 | 景気を過熱も冷え込みもさせない理論的な金利 | これを超えると引き締め、下回ると緩和 |
実際の金融政策の動き
- 政策金利 > 中立金利 → 金融引き締め(景気抑制、インフレ抑制)
- 政策金利 < 中立金利 → 金融緩和(景気刺激、成長促進)
例えば、現在のアメリカ(2024~2025年) では、インフレ抑制のためにFRBが政策金利を 5.25%~5.50% に維持しており、中立金利(約4%と推計)を超えているため、金融引き締めが行われている。一方で、日本は中立金利が極めて低いため、長期間ゼロ金利政策を維持してきた。
今後、金融政策を考える上では、中立金利の水準やその変化についても注目する必要がある。特に、各国の中央銀行総裁の発言や経済指標の変化に注意を払うことが重要だ。
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