もしも投資家が暴落を予想できたら、どの程度パフォーマンスが向上するのか。多くの人は、そんなことを夢見るだろう。そのため、多くの投資家は血眼になって暴落を予想しようとする。また、相場が急上昇する前にポジションをロングに持ちたがる。これは非常に自然な感情だと思う。
もし将来の相場を予測できるならば、パフォーマンスは確実に向上するだろう。過去に戻れると仮定して、どの銘柄をロングするか、どの指数をショートするかを夢想することは、多くの投資家が一度は考えることだろう。
しかし、市場の動きを100%の精度で予測することは極めて難しい。多くの専門家が指摘しているように、完全に的中させることは不可能に近い。
今回は単なる思考実験として、もしも市場の暴落を完全に回避できた場合にパフォーマンスがどの程度向上するのかを検証する。もちろん、現実にはこのような戦略が完璧に機能するケースはほとんどないことを留意しておくべきだ。
思考実験の概要
本実験では、S&P500のドル建てリターンを2008年1月から直近まで月次ベースで計算する。為替の影響は考慮しない。市場の最も大きな暴落が発生する前に全ポジションを現金化し、その月のリターンを0%と仮定した場合、パフォーマンスがどの程度向上するかを計測する。
この期間で最も月次リターンが悪化したのは2020年3月の▲20%だ。この下落を事前に回避し、2020年4月の初めに再びS&P500に全額投資した場合のパフォーマンスを計算した。
2008年1月に100にして投資のリターンを指数化した場合、直近の評価額は405.52であり、年率平均リターンは9.92%である。一方、2020年3月の下落を完全に回避し、翌月に全額投資できた場合、最終的な評価額は507.25となり、年率平均リターンは11.1%に向上する。その差は非常に大きい。200ヶ月以上の期間のうち、たった1ヶ月の下落を避けることができれば、パフォーマンスは20%以上向上する。
ワースト5回・10回の暴落回避による影響
同様に、ワースト5回およびワースト10回の月を回避できた場合のパフォーマンスも計測する。これは、200ヶ月の間に40回に1回または20回に1回の不運な月を事前に察知し回避できた場合のシナリオだ。
参考のため、ワーストの月次リターンを以下に示した。
ワースト10の月次リターン
年月 | リターン |
---|---|
2020-03 | -20.0% |
2008-10 | -16.7% |
2008-11 | -15.5% |
2009-02 | -15.1% |
2009-01 | -11.4% |
2010-05 | -10.9% |
2018-12 | -10.0% |
2008-09 | -9.1% |
2012-05 | -9.1% |
2015-08 | -8.8% |
ワーストリターンを回避できた回数のパフォーマンス
ワースト回避回数 | 指数 | 年率平均リターン |
---|---|---|
回避なし | 405.52 | 9.92% |
ワースト1回を回避 | 507.25 | 11.1% |
ワースト5回を回避 | 959.38 | 14.6% |
ワースト10回を回避 | 1589.00 | 17.4% |
この結果は驚くべきものだ。200ヶ月に1回の暴落を避けるだけで、リターンが20%向上する。また、ワースト5回の暴落を回避できれば、資産はほぼ2倍になる。さらに、ワースト10回を回避できた場合、資産は3倍以上に膨れ上がる。つまり、20ヶ月に1回(約2年に1回)の暴落を事前に察知できれば、16年後には運用資産が3倍になっている計算だ。
ベストパフォーマンスの月を逃した場合
一方で、最もパフォーマンスの良い月を逃した場合にはどうなるだろうか。
ベスト10の月次リターン
年月 | リターン |
---|---|
2009-03 | 15.73% |
2020-04 | 14.58% |
2008-12 | 14.16% |
2011-10 | 10.83% |
2020-11 | 10.64% |
2010-07 | 9.59% |
2015-10 | 9.37% |
2009-07 | 8.59% |
2023-11 | 8.42% |
2009-04 | 8.19% |
掴めなかった場合のパフォーマンス
ベストのリターンを逃したケース | 指数 | 年率平均リターン |
---|---|---|
なし | 405.52 | 9.92% |
ベスト1回を逃す | 350.46 | 9.00% |
ベスト5回を逃す | 218.45 | 6.04% |
ベスト10回を逃す | 143.10 | 3.44% |
この結果もまた衝撃的だ。ベストパフォーマンスの月を逃した場合、指数は20%以上低下する。さらに、ベスト5回の上昇を逃すと、指数は半減し、ベスト10回を逃せば資産は3分の1にまで減少してしまう。200ヶ月の間にたった10回の上昇を逃すだけで、パフォーマンスはここまで低下するのだ。
結論
投資家はマーケットの暴落を回避しつつ、マーケットが上昇するタイミングにはしっかり投資したいと考える。しかし、その予測が正確にできる例はほとんどない。むしろ、暴落を回避しようとするあまり、上昇の期間を逃してしまうリスクが極めて大きい。
長期的にプラスのリターンを見込める資産であれば、短期的なボラティリティには目をつぶるべきだ。長期視点で市場に居続けることで、暴落のダメージを受ける一方、マーケットが光り輝く瞬間のリターンも享受できるのである。
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