現在、芝浦電子株式会社に対して、2社が株式公開買付け(TOB)を実施しており、企業買収の主導権を巡る競争が生じている。いずれの企業も、芝浦電子の高いセンサー技術に着目し、自社の電子部品関連事業との相乗効果を狙っている。
その2社は、ミネベアミツミ株式会社とYAGEO Corporation(台湾)である。
ミネベアミツミ株式会社
ミネベアミツミ株式会社(MinebeaMitsumi Inc.)は、超精密機械加工技術とエレクトロニクス技術を融合させた製品を提供する、日本発のグローバル企業である。
企業概要
項目 | 内容 |
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社名 | ミネベアミツミ株式会社(MinebeaMitsumi Inc.) |
設立 | 1951年7月16日 |
本社所在地 | 長野県北佐久郡御代田町大字御代田4106-73(軽井沢工場) |
東京本部所在地 | 東京都港区東新橋1-9-3(東京クロステックガーデン) |
資本金 | 68,258百万円(2024年3月末現在) |
代表者 | 代表取締役 会長 CEO 貝沼 由久(かいぬま よしひさ) |
上場証券取引所 | 東京証券取引所 プライム市場(証券コード:6479) |
連結売上高 | 1兆4,021億円(2023年4月1日~2024年3月31日) |
従業員数 | 83,886人(2024年3月末現在、パート・派遣社員を除く) |
連結子会社数 | 145社(2024年3月末現在) |
事業内容
ミネベアミツミは、以下の主要な事業分野で製品を展開している
- プレシジョンテクノロジーズ:精密ベアリングや機械加工品の製造。
- モーター・ライティング&センシング:小型モーター、LED照明、センサーの開発。
- セミコンダクタ&エレクトロニクス:半導体デバイスや電子部品の製造。
- アクセスソリューションズ:自動車部品や住宅機器の提供。
これらの事業を通じて、IoT社会への貢献を目指している。
沿革と成長戦略
1951年に日本初のミニチュアベアリング専業メーカーとして設立された同社は、その後、ミツミ電機、ユーシン、エイブリックとの経営統合を経て、センサーや半導体などの分野にも事業を拡大している。
現在、世界27か国で約10万人の従業員を擁し、超精密機械加工技術とエレクトロニクス技術を融合させた製品を提供している。ミネベアミツミは、今後も技術革新とグローバル展開を推進し、社会にとって「なくてはならない会社」を目指している。
YAGEO Corporation(台湾)
YAGEO Corporation(ヤゲオ、国巨股份有限公司)は、1977年に台湾で設立された世界有数の受動電子部品メーカーである。同社はチップ抵抗器、積層セラミックコンデンサ(MLCC)、インダクタ、トランス、リレー、アンテナ、無線部品、回路保護部品など、多岐にわたる製品を提供し、グローバルな電子機器市場において重要な役割を果たしている。
企業概要
項目 | 内容 |
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社名 | YAGEO Corporation(ヤゲオ、国巨股份有限公司) |
設立 | 1977年9月9日 |
本社所在地 | 台湾 新北市新店区宝橋路233-1号3階 |
上場市場 | 台湾証券取引所(証券コード:2327) |
上場日 | 1993年10月22日 |
代表者 | 董事長(会長):陳泰銘(Pierre Chen) |
従業員数 | 約40,000人(2022年時点) |
売上高 | 約1,210億台湾ドル(約5,400億円、2022年) |
ウェブサイト | https://www.yageo.com/ |
事業内容と製品ポートフォリオ
YAGEOは、以下の製品群をワンストップで提供している
- 抵抗器:チップ抵抗器、金属皮膜抵抗器、炭素皮膜抵抗器など。
- コンデンサ:積層セラミックコンデンサ(MLCC)、タンタルコンデンサ、アルミ電解コンデンサなど。
- インダクタ:巻線チップインダクタ、フェライトビーズなど。
- 回路保護部品:バリスタ、サージプロテクタ、リセッタブルヒューズなど。
- 無線部品:アンテナ、RFフィルタ、トランスなど。
これらの製品は、航空宇宙、自動車、5G通信、産業機器、医療、IoT、電源管理、グリーンエネルギー、コンピュータ周辺機器、家電など、幅広い分野で使用されている。
グローバル展開と市場シェア
YAGEOは、アジア、ヨーロッパ、アメリカに生産・販売拠点を持ち、世界中の顧客に製品を提供している。同社は、チップ抵抗器およびタンタルコンデンサで世界第1位、MLCCおよびインダクタで世界第3位の市場シェアを有している。
主な買収と成長戦略
YAGEOは、以下のような企業買収を通じて事業を拡大してきた:
- 1996年:デンマークのVitrohmを買収。
- 2000年:オランダのPhycompおよびFerroxcubeを買収。
- 2018年:米国のPulse Electronicsを買収。
- 2020年:米国のKEMET Corporationを買収。
- 2022年:ドイツのHeraeus Nexensos GmbHおよびフランスのTelemecanique Sensorsを買収。
これらの買収により、YAGEOは製品ポートフォリオを拡充し、グローバルな市場での競争力を強化している。
芝浦電子株式会社
芝浦電子株式会社(Shibaura Electronics Co., Ltd.)は、1953年に創業された日本の電子部品メーカーで、主にサーミスタ素子や温度センサの製造・販売を行っている。同社は、NTCサーミスタの分野で世界トップシェアを誇り、家電、自動車、医療機器、産業機器など多岐にわたる分野で製品が使用されている。
企業概要(2024年3月期時点)
項目 | 内容 |
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社名 | 株式会社芝浦電子(Shibaura Electronics Co., Ltd.) |
設立 | 1953年3月3日 |
本社所在地 | 埼玉県さいたま市中央区上落合2丁目1番24号(三殖ビル) |
資本金 | 21億4,461万円 |
従業員数 | 約190名(グループ全体:約4,300名) |
売上高(連結) | 324億0,100万円 |
上場市場 | 東京証券取引所 スタンダード市場(証券コード:6957) |
代表者 | 代表取締役社長 葛西 晃 |
事業内容と製品群
芝浦電子は、以下の製品を中心に事業を展開している:
- サーミスタ素子:温度変化に応じて電気抵抗が変化する半導体素子。
- 温度センサ:サーミスタを応用した温度検知デバイス。
- 湿度・風速センサ:環境計測用の各種センサ。
- 計測・制御機器:温度・湿度・風速・流量などの計測・制御機器。
これらの製品は、エアコンや冷蔵庫などの家電製品、電気自動車(EV)のバッテリー温度制御、医療機器の温度管理、スマートフォンやノートパソコンの過熱防止センサーなど、さまざまな分野で使用されている。
主な取引先
芝浦電子の主要取引先には、以下の企業が含まれる(50音順):
- キヤノン株式会社
- シャープ株式会社
- スズキ株式会社
- 株式会社SUBARU
- 住友電装株式会社
- ダイキン工業株式会社
- 株式会社デンソー
- 株式会社東芝
- トヨタ自動車株式会社
- TOTO株式会社
- 日産自動車株式会社
- 株式会社ノーリツ
- パナソニック株式会社
- 日立アプライアンス株式会社
- 株式会社富士通ゼネラル
- 富士フィルムビジネスイノベーション株式会社
- ホシザキ株式会社
- BOSCH
- 本田技研工業株式会社
- 三菱自動車工業株式会社
- 三菱電機株式会社
グローバル展開と拠点
芝浦電子は、国内外に製造・営業拠点を展開している。
国内子会社:
- 株式会社東北芝浦電子
- 株式会社岩手芝浦電子
- 株式会社福島芝浦電子
- 株式会社角館芝浦電子
- 株式会社青森芝浦電子
海外子会社:
- Thai Shibaura Denshi Co., Ltd.(タイ)
- 東莞芝浦電子有限公司(中国)
- 上海芝浦電子有限公司(中国)
- 香港芝浦電子有限公司(香港)
- 株式会社芝浦電子コリア(韓国)
- Shibaura Electronics Europe GmbH(ドイツ)
- Shibaura Electronics of America Corporation(アメリカ)
芝浦電子は、創業以来、サーミスタ技術を中核とした製品開発と品質管理に注力し、国内外の顧客から高い評価を得ている。今後も、技術革新とグローバル展開を通じて、電子部品業界におけるリーダーシップを維持・強化していく方針である。
現在のTOBの状況
まずは、芝浦電子とTOBをかけている売上高を比べてみよう。
企業名 | 2024年3月期 売上高 | 主な事業分野 |
---|---|---|
芝浦電子 | 約324億円 | 温度センサ、サーミスタ素子など |
ミネベアミツミ | 約1兆4,021億円 | ベアリング、モーター、センサなど |
YAGEO(ヤゲオ) | 約5,835億円 | 抵抗器、コンデンサ、インダクタなど |
これを見ると、TOBをかけられている芝浦電子は、TOBをかけている2社に比べて、随分と売上の規模が小さい。ミネベアミツミと比べてれば2%程度だし、ヤゲオと比べても5%程度だ。
TOBの内容
芝浦電子の発行済株式総数(基準日:2025年3月31日)は15,559,730株である。それを前提でTOBの内容を以下にまとめた。
TOB 1:ミネベアミツミ株式会社(日本)
項目 | 内容 |
---|---|
企業名 | ミネベアミツミ株式会社(MinebeaMitsumi Inc.) |
国籍 | 日本 |
買付価格 | 1株あたり 4,500円 |
買付予定株数 | 15,015,111株(発行済株式の約96.5%) |
買付予定金額 | 約675億円 |
買付期間 | 2025年4月23日(水)~5月27日(火) |
公開買付代理人 | 大和証券株式会社 |
TOBの目的 | 芝浦電子が持つ高精度なセンサー技術を活用し、電子部品事業の強化と競争力の向上を図るため。 |
ミネベアミツミは、機械加工品や電子部品を世界的に供給する大手総合部品メーカー。芝浦電子の取得によって、センサー分野での製品ラインアップを拡充し、成長領域でのシナジー効果を追求している。
ミネベアミツミは、今回のTOBではホワイトナイトとして参加している。参加理由は以下のリンクを参照してほしい。

TOB 2:YAGEO Corporation(台湾)
項目 | 内容 |
---|---|
企業名 | YAGEO Corporation(ヤゲオ コーポレーション) |
国籍 | 台湾 |
買付価格 | 1株あたり5,400円(当初提示の4,300円から大幅に引き上げ) |
買付予定株数 | 15,246,293株(発行済株式の約98.0%) |
買付予定金額 | 約823億円 |
買付期間 | 2025年5月7日(水)~6月17日(火) |
公開買付代理人 | 三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社 |
TOBの目的 | 芝浦電子の持つ技術力をグループに取り込み、グローバルな電子部品事業の競争力を高めるため。 |
YAGEOは、チップ抵抗・MLCC(積層セラミックコンデンサ)などの受動部品で世界トップクラスのシェアを持つグローバル企業。芝浦電子の買収によって、センサー領域への事業拡大とグループ内の技術融合を狙っている。
ヤゲオがどうして芝浦電子を高い価格で買いたいのかは、以下のリンク先の社長のインタビューを見てほしい。

このように、両社とも発行済株式の9割以上を取得しようとする極めて高い比率の買付けを提示しており、芝浦電子を実質的に完全子会社化する意図が読み取れる。買収後の統合戦略や技術融合の具体的な進捗も注目される。
株価
TOBが公表されてから、株価はうなぎのぼりだ。2月から現在の株価は倍ぐらいになっている。過去6ヶ月で見ても+60%だ。

実際に、このTOBがどうなっていくのか判断するのは難しい。ただし、TOBの発表前に取得をしていた株主にとってはかなり嬉しい株価の上昇になるだろう。
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